【雑記】豆腐百珍 湯やっこ
豆腐百珍. [正編] より

(国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536494)
→ 豆腐百珍. [正編] (国立国会図書館デジタルコレクション)
著者の醒狂道人何必醇は料理人ではなく、篆刻家(てんこくか・印章職人)の曽谷学川(そだにがくせん)であると言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。いずれにしても教養とセンスのある人物だったようで、豆腐に関する和漢の文献から故事来歴をまとめ、漢詩なども盛り込んであって、料理レシピ本というよりも、どちらかというと“読み物”としての側面のほうが強いかも知れません。
“醒狂道人何必醇”というペンネームもなんだか洒落ていますよね。“何必醇”とは「濃厚な味ばかりが美味しい訳ではない」という意味らしいです。
豆腐料理を「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」「妙品」「絶品」と、6段階で格付けして掲載したことも画期的で、この本は大阪から江戸へと下り、たちまち大ベストセラーになりました。そして翌年には「豆腐百珍続編」が、そのまた翌年には「豆腐百珍余録」が出版されます。
「豆腐百珍」の人気をきっかけに、「鯛百珍料理秘密箱」、「甘藷百珍」、「万宝料理秘密箱 卵百珍」などのいわゆる“百珍もの”が次々と出版され、江戸にグルメブームが巻き起こりました。このあたりは現代とあまり変わりませんよね。誰だったか「人間(民族)の本質は100年や200年経ったところでたいして変わらない」とおっしゃっていましたが、和猫も同感です。
「豆腐百珍」を実際に読んでみると、詳細な調理法が書かれていないものもあるし、想像で書いているものもあるよね?という料理もいくつか見受けられます。逆に、やたらと作り方に拘っているものもあって面白いです。

(画像 「豆腐百珍」新潮社より P13、P74 )
これ↑なんて、どう見ても一般家庭で普通に作るような料理じゃないですよね(;・∀・)
左は「結び豆腐」といって、豆腐を薄く長く切って結んですまし汁を張ったもの。
右側はこれも豆腐を細長く切って、まるでうどんのようにして食べる「縮緬豆腐」です。
「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」「妙品」「絶品」の格付けもなかなかで、以下のように書かれてあります。
尋常品(26品)
どこの家庭でも常に料理するものだが、その中にも料理人の秘伝といったものがあれば全て書き記した。
通品(10品)
料理に格別に難しいことはない。一般に知られているので、料理法は記すほどのことはなく、料理名だけを記す。
佳品(20品)
風味が尋常品にやや優れ、見た目の形のきれいな料理の類である。
奇品(19品)
ひときわ変わったもので、人の意表をついた料理である。
妙品(18品)
少し奇品に優るものである。奇品は形は珍しいが、うまさの点で妙品に及ばない。妙品は形、味ともに備わったものである。
絶品(7品)
さらに妙品に優るものである。奇品、妙品は最上の美味ではあるが、うますぎるきらいがある。絶品は、ただ珍しさ、盛り付けのきれいさに捉われることなく、ひたすら豆腐の持ち味を知り得る、絶妙の調味加減を書き記した。豆腐好きの人ならば、必ず食すべきものである。
(「豆腐百珍」 新潮社より)
前回の記事「【雑記】江戸の豆腐」でも熱く語ったように、和猫は豆腐が大好きです。この時代に生きていたら絶対に何必醇の「豆腐百珍」を買ったと思います。そういえば、「細雪」で有名な文豪・谷崎潤一郎は美食家としても知られていますが、「豆腐百珍」に掲載されている100種類の料理をすべて作って試食したという話があります。
こちらは和猫が購入した現代語訳…というか、100種類の料理を現代のレシピで多少アレンジを加えて再現した「豆腐百珍」です。簡単な作り方も載っています。

尋常品から絶品まで、田楽のレシピが合わせて14品あります。
江戸人はほんとうに豆腐田楽が大好きだったんですねぇ。木の芽田楽やお醤油を付けて焼いた田楽などのほかに、海胆を乗せて焼いたものまでありました。
100種類の中で興味があるものをいくつか作ってみたのですが、和猫の一押しはなんといっても絶品97番の「湯やっこ」です。
湯やっこは現代でいうところの湯豆腐のことですが、豆腐百珍の湯やっこは、お湯ではなく葛湯を使っているところがポイント!葛湯で温めることで、豆腐の舌触りがより滑らかになるし、冷めにくいという利点もあります。
また、花かつおと醤油で作るお出汁も最高です( ̄¬ ̄*)

最近では和猫家で湯豆腐というと、この湯やっこを指します。
こちらがレシピになります。
豆腐百珍. [正編]より

(国立国会図書館デジタルコレクション http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536494)
(コマ番号35~36の該当部分を繋げて赤枠で囲む)
①豆腐を3センチほどの采の目か、3.5センチくらいの拍子木に切る。
②葛湯を湯玉が立つほど沸かす。
③豆腐を一人前入れて、まさに浮き上がろうとするところを掬い取って器に盛る。
④浮き上がってしまっては加減がよくないので手っ取り早く!
⑤器も温めておくと良いでしょう。
⑥生醤油を煮立たせて花かつおを入れ、湯を少し足してさらに煮立たせて濾し、猪口に入れる。
⑦ネギの白根のざくざく、おろし大根、唐辛子の粉を入れる。
豆腐を入れて、まさに今浮き上がるっ!というところを見計らって掬い取るのが重要なポイントみたいですね(ノ´∀`*)
でも、豆腐を芯まで温めるには、もう少し長く葛湯でグツグツとやっておくか、あらかじめ豆腐を室温に戻しておく必要があると思います。
「ネギの白根のざくざく」とは、要するに刻み葱のことです。

レシピをさらにわかりやすく書き直すとこんな感じ。
ちなみに分量は適当です( ̄∀ ̄*)
①生醤油を煮立たせて花かつおを入れてまた煮る。
②煮立ったら、適度にお湯を足して好みの味に調節して濾しておく。
③刻み葱、大根おろしを作る。
④豆腐を3センチほどの采の目か拍子木に切る。
⑤葛湯を作る。
⑥葛湯が沸いたら豆腐を入れて温め、先に作っておいた醤油出汁に薬味と、お好みで一味をかけていただく。

江戸時代の味を完全に再現するには、豆腐の製造や醤油の製造から変えるところからやらないといけないのでほとんど不可能ですが、現代風にアレンジして食べる「湯やっこ」はまさに絶品です。
今夜のように寒い日は「湯やっこ」に限ります(*´艸`*)
<参考にした書籍・サイト>
・「江戸庶民の食風景 江戸の台所」 人文社編集
・「豆腐百珍」 新潮社
・国立国会図書館デジタルコレクション
・国立国会図書館 月報(2013年6月 №627)
・「下級武士の食日記」 青木直己・著